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東京高等裁判所 昭和61年(う)610号 判決 1988年7月18日

本籍

香川県仲多度郡多度津町大字東白方二三五番地

住居

東京都保谷市下保谷二丁目三番九号

無職(元団体役員)

村井弘

大正一三年九月二七日生

右の者に対する背任、業務上横領、所得税法違反被告事件について、昭和六一年三月六日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官村山弘義出席の上審理をし、次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三年及び罰金三〇〇〇万円に処する。

原審における未決勾留日数中六〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは金一五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

被告人に対しこの裁判確定の日から五年間右懲役刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人菱川嘉三、同星正夫連名の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官村山弘義名義の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意第一点(一)ないし(四)、(六)(原判示第二の一、二の背任、業務上横領の事実についての事実誤認の主張)について

所論は、原判決は、第二の一、二の背任、業務上横領の事実のうち、別紙(一)ないし(四)記載の部分(ただし、控訴趣意書第一点(一)原判決一の(一)関係とあるのは原判決第二の一の(一)関係の、同第一点(一)の1の二行目かっこ内にS59・6・20付とあるのはS59・6・2付の、同第一点(二)原判決一の(三)関係とあるのは原判決第二の一の(三)関係の、同第一点(三)原判決二の(一)関係とあるのは原判決第二の二の(一)関係の、同第一点(四)原判決二の(二)関係とあるのは原判決第二の二の(二)関係の、各誤記と認める。)につき被告人が村井学園の学園備品、学園資産として購入した不動産、不動産利用権、ゴルフ会員権、美術品、書籍類を私物として購入したものと認定した事実誤認があり破棄を免れない、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討するに、原判決の挙示する関係証拠によれば、所論の不動産、不動産利用権、ゴルフ会員権、美術品、書籍類は、被告人が村井学園のために購入したもではなく、被告人が自分自身のために学園資金を私的に流用して購入したものであるとして、原判示第二の一、二の背任・業務上横領罪の成立を認めた原判決の認定は正当であり、所論の点につき原判決が「主張に対する判断」一の(三)「学園の資産ないし備品の主張について」と題して説示するところは、当裁判所もこれを正当として是認することができる。

なお、所論にかんがみ若干補足して説明を加える。

まず、関係証拠によれば、次の事実が認められる。

被告人は、昭和二六年村井みどりと結婚して村井姓を名乗り、昭和二七年学校法人村井学園の経営する立川女子高等学校の講師に、昭和二九年同校の専任教諭となるとともに村井学園の理事長であった義父村井喬平を助けて村井学園の経営に携わるようになり、昭和三一年喬平が病に倒れるや村井学園の経営を事実上委され、昭和三四年喬平が死亡した後は、理事で立川女子高等学校及び立川女子中学校の各校長並びに立川幼稚園の園長を兼ね、理事長の村井愛子から村井学園の運営一切を委され、理事長代行として生徒数の拡大や校舎、図書館の建設、教育の充実等村井学園の発展と充実のために努めてきた。昭和四九年理事長の愛子が死亡し、被告人の妻みどりが理事長となったが、同女も学園の経営には携わらず、前同様被告人が理事長代行として学園の運営一切を取り仕切っていた。

ところで、松本雄三は被告人の妻の妹みち子の夫であるが、愛子の死亡の直前に、被告人とみどりの間の子供五人、松本雄三とみち子の間の子供二人とともに愛子と養子縁組をし、村井学園の敷地を含む愛子の財産を共同相続する立場となったのに、村井家の中では被告人のみが相続人から除外されることとなった。愛子の死亡後松本雄三は自己を理事とするのが愛子の意思であると言ったり、後任の理事長みどりに自己を理事とすることを承諾する旨の書面を作成させたりして村井学園の経営に参加する意欲を示した。なお、私立学校法三八条四項によれば、理事たる役員のうちには、各役員について、その配偶者又は三親等以内の親族が一人をこえて含まれることになってはならないとされているところ、村井家直系の長子であるみどりが理事をやめることが考えられないとすると、松本が理事となれば被告人は理事から排除される関係にあった。

このような動きに対し被告人は松本に村井学園の経営の実権を奪われ学園から排除されるのではないかとの強い危機感を覚えた。被告人は村井学園が現在の姿にまで発展し、経済的に余裕ができるようになったのはすべて被告人の努力によるものであるという強い自負心を持っていたので、このような動きに強い反発を覚え、被告人の努力の結晶ともいうべき学園の資金を他の者の思い通りに使われるということには断じて応じられないと考え、「学園の金を私の自由に使おう。私が築き上げた学園の金なのだから私の自由に使ってもいいではないか。学園の金を使って私個人の財産を蓄え、誰にも経営権を脅かされないだけの基盤を作ろう。もう学校には余分な金を残さないようにしよう。そうすれば今後とも私が経営の実権を握っていけるし、万一私が追い出されたり或は引退した場合の老後の生活に困らないだろう。」(被告人の検察官に対する昭和五九年六月二五日付供述調書((本文六四丁分))、なお、弁護人は被告人の検察官に対する各供述調書の信用性を争っているが、右各供述調書は、1内容が具体的かつ詳細で特に背任・業務上横領の犯行に及んだ動機に関する供述は経験した人しか知り得ない内心の懊悩を含めて供述しており、信用できること、2被告人には捜査の初期の段階から弁護人がついており、弁護人と頻繁に面会しているのに、弁護人に対し自己の意に沿わない供述調書が作成されている旨訴えたことはなかったこと、3被告人は原審の冒頭手続においても公訴事実をすべて認めていること、などに照らし十分信用することができるものと認められる。)という気持から、学園の資金で被告人名義の不動産等を購入して個人資産を蓄積したり、デパートの買物等の私的用途に学園の資金を費消するようになった。原判示第二の一、二の背任・業務上横領は被告人がこのような意思から敢行したものである。

右のように、被告人は学園の資金を自由に私的用途に使い或は学園の資金を使って被告人個人の資産を蓄積しようとしたものであって、所論の不動産、不動産利用権、ゴルフ会員権、美術品、書籍類が学園資産、学園備品ではなく、被告人の私物であることは明らかである。

所論は、新川誠の検察官に対する昭和五九年六月一八日付供述調書添付「売上集金一覧表」中冒頭記載の前年よりの繰越金九三一万二八二四円についてはその明細が不明であり、学園の歳暮等の贈答品代の費用ではないかと考えられると主張するが、右新川誠の検察官に対する供述調書によれば、右前年からの繰越金はすべて熱海と逗子の別荘関係の売上残高であると認められるから、被告人の私的支出であり、背任の対象から除外すべきものであるとは認められない。

所論は、原判決は、本件不動産、不動産利用権、ゴルフ会員権につき、村井学園の寄附行為によって要求される理事の三分の二以上の議決による承認を経ていないことや、学園資産台帳に計上されていなかったことを右不動産等が学園資産ではない根拠としているが、村井学園の経営はその時々の主宰者の独断で行われ、理事会の存在など有名無実であり、昭和四〇年代に被告人が村井学園名義等で取得した不動産等についても理事会の議決を経ておらず、学園資産台帳にも計上されていなかった等の例にみるように、村井学園においては理事会の承認の有無、学園資産台帳への計上の有無などに拘わらず学園資産なのであり、本件不動産、不動産利用権、ゴルフ会員権は、その所有名義に関係なく、学園が必要とするときには学園資産として提供されるものであったから、本件不動産類はいずれも学園資産であった、と主張する。

しかし、本件不動産、不動産利用権、ゴルフ会員権は、被告人が被告人個人の資産を蓄積するために取得したものであり、被告人が村井学園のために被告人名義で取得し理事会の三分の二以上の議決による承認と学園資産台帳への計上という手続を怠ったにすぎないものではないことは関係証拠によって明白である。

次に所論は、被告人名義で取得したマンションは逗子マリーナを除きすべて当該マンションの中で最も大きなものであって、このことは被告人がこれらのマンションを学園資産として取得したことを示すものであると主張する。

しかし、関係証拠によれば、被告人が取得したマンションはすべて家族用のマンションであって、大きなものでも多人数の使用に適するものではないから、これを根拠に学園資産として購入したものとはいえない。

所論は、原判決は逗子マリーナにつき「内装工事を施し家具調度を整え、被告人の家族に自家の別荘として使用させていた」として、逗子マリーナが学園資産ではないと断定しているが、被告人が家族の逗子マリーナ使用を黙認したのは、被告人が逗子マリーナを取得したことを知った被告人の家族が被告人が女を囲うためマンションを購入したと騒ぎだしたため、被告人は家族の想像と異なることを確認させるためその使用を黙認したものにすぎない、と主張する。

しかし、もし逗子マリーナが学園資産であるならば、内装工事を施し家具調度も整えられているのであるから、村井学園の生徒や教職員に公開されて然るべきであり、被告人が自己の家族にのみ別荘として使用することを許していたのは、被告人が逗子マリーナを自己の資産であると認識していたからに外ならない、というべきである。

所論は、第一熱海マンション及び逗子マリーナには家具調度が整えられ宿泊ができ、蓼科ソサエテイクラブ等の不動産利用権、河口湖カントリークラブ等のゴルフ会員権もいずれも利用できる施設であるが、これらの施設を被告人は全く使用していない、このことはこれら不動産、不動産利用権、ゴルフ会員権を自己名義としたのに拘わらずすべて学園資産と観念していたことを示すものである旨主張する。

しかし、被告人自身はこれらのマンション等を使用していないにしても、逗子マリーナについては被告人の家族に自家の別荘として使用を許しており、また、第一熱海マンションについても家族に一、二回使用を認めたことがあるのであり、これらは被告人が使用したことに外ならず、被告人が全く使用していないとはいえない。その他のマンション等については被告人がこれらを使用していた形跡はなく、また、村井学園の生徒、教職員にこれらを使用させた形跡もないが、これらの物件が使用されていないのは、被告人が投資目的でこれらの物件を購入したことを窺わせるに止まり、学園資産として購入したことを示すものとはいえない(被告人が全くゴルフをしないのに拘わらず被告人名義の個人会員権を取得しているのは投資目的によるものと考えられる。学園の資産として取得するのであれば、法人会員権が取得されたであろうと思われる。)。

所論は、美術品・書籍は、学校備品として、校長たる被告人が学園名義で購入し学校施設内で保管していたものであると、主張する。

たしかに、所論の美術品・書籍等については、これら販売店等の作成・発行にかかる領収証等の宛先が立川女子高等学校とされ、主として村井学園二階の応接室、理事長室等に納品・保管されていたことは認められるが、これら美術品・書籍が主として保管されていた村井学園図書館二階の理事長室、応接室等は、被告人が寝泊りに使用し、一般生徒などの立ち入らない被告人の私室部分であること、これらの美術品・書籍は学園の備品としてふさわしくない物が多く被告人の好みにより被告人個人のために購入したものと認められること、これらの美術品・書籍は学園の台帳にも記載されておらず、生徒や教職員の利用にも供されていないことなどから考えると、被告人が検察官に対する各供述調書において認めている如く被告人が私物として購入したものと認めるのが相当である。

次に所論は、被告人が購入した書籍中には全く同一のものを二冊以上購入している事例が多々あり、これは被告人が右書籍を学園備品として購入したことを示すものであると主張する。

しかし、被告人が二冊以上購入した書籍は、おゝむね専門的かつ高価なものであり、学園備品としても二冊以上購入することを適当とするものとは認め難いから、これらの書籍が二冊以上購入されているのは投資目的その他の理由によるものと推認される。

論旨は理由がない。

控訴趣意第一点の(五)(原判示第二の三の所得税法違反についての事実誤認の主張、なお控訴趣意書第一点の(五)に原判決三関係とあるのは原判決第二の三関係の誤記と認める。)について

所論は、原判決は、原判示第二の三の所得税法違反の事実において、原判示第二の一、二の摘示事実すべてを被告人の収入と断じ、その結果、被告人の昭和五六年分の実際総所得金額を二億三一三八万九一三八円、昭和五七年分の実際総所得金額を二億九六一七万九八三五円と認定しているが、被告人名義の不動産、不動産利用権、ゴルフ会員権はその名義に拘らず学園資産であり、美術品、書籍等も学園資産であり、被告人又は家族の私物の取得、税金支払い、或いは岡野等への支払い等のために支出された学園資金は学園から被告人への仮払金にすぎず、被告人の収入ではない。結局、被告人の昭和五六年分の実際所得金額は二二三八万七四九三円、昭和五七年分は二三六九万三八六〇円であり、原判決には、この点において事実誤認がある、というのである。

しかし、被告人が取得した不動産、不動産利用権、ゴルフ会員権、美術品、書籍類は、被告人が学園資産、学園備品として購入したものではなく、私物として購入したものと認められることは前記認定のとおりである。このように被告人が個人的に購入した不動産等の代金を学園に負担させ被告人がその支払いを免れることが被告人の得た利益となり、被告人が所得税を申告すべき所得となるのであって、被告人にその認識があったと認められることは、原判決の説示するとおりである。また、関係証拠によれば、被告人が、被告人又は家族の私物の取得、税金の支払い、岡野喜美子等への支払いのために支出した資金は学園から仮払いを受けた資金によるものではなく、被告人が前記の被告人の私的用途にあてるために学園資金を勝手に使用したものであって、これが被告人の収入ではないとは認められない。論旨は理由がない。

控訴趣意第二点(原判示第二の三の所得税法違反の事実についての事実誤認の主張)について

所論は、原判決は、判示第二の三の所得税法違反の事実において、経理の仮装処理は被告人が本件背任及び業務上横領によって得た所得を秘匿するために行われたものと認定しているが、右仮装経理は専ら東京都の監査に備えたもので、自己の収入を秘匿するためのものではない、原判決の摘示する被告人の検察官に対する供述調書には、税務署を意識していた旨の記載があるが、これは被告人の意に添わない押し付けの調書であって不合理である、結局、被告人にほ脱の犯意を認めた原判決には事実誤認があり、破棄を免れない、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討するに、原判決の挙示する関係証拠によれば、原判示第二の三の(一)、(二)の各所得税法違反の事実を認めることができる。

原判示の経理の仮装処理は補助金を交付する東京都の監査に備えたものだけではなく、あわせて被告人の所得を秘匿する意図もあったとする原判決の認定は当裁判所もこれを是認することができる。被告人は検察官に対する供述調書において、「私はこの裏の収入についても税金がかかり税金を払わなければならないことを百も承知しておりましたが、正直に申告すれば、私の悪事が表ざたになるし、多額の税金を払わなければならなくなるので、この裏収入を絶対に隠さなければならないと思っておりました。特に学園の経理を監査する東京都に対してと税金の調査をする立川税務署に対しこの裏収入を隠すつもりでした」(昭和五九年七月一〇日付)、「私が裏収入を得ていた事を架空処理したのは東京都からの補助金対策及びそれに伴う都の監査対策もさることながら、学園からの裏収入による私の所得税を免れるため、つまり税務対策上も絶対にやっておかなければならない必要不可欠の措置でした。」(同月九日付)旨供述しており、これらの調書は所論のような押しつけの調書とは認められず、十分信用できるものと認められる。そうすると原判示の経理の仮装処理は本件背任及び業務上横領で得た所得を秘匿するために行われたものと認められるとした原判決の認定に誤りがあるとは認められない。

所論は、村井学園は学校法人であるから特別の収益事業を営まない限り、教職員に対する給与支払に基づく源泉徴収義務以外の納税義務はなく、給与関係以外の支払内容について、対税務署関係で支払内容につき仮装経理をなす必要性は全く存しないと主張する。

しかし、関係証拠によれば、村井学園に対し所得税の源泉徴収の関係で立川税務署の立入り調査がなされることが予想され、その調査の際被告人が学園の資金を私的に使用し、給与以外に裏収入を得ていた事実が露見するおそれがあり、これを秘匿するためにも仮装経理をする必要があったものと認められる。

所論は、高価な美術品・書籍の購入、不相当な保養設備の購入等は、それが事実であれば、対税務署関係で何ら仮装経理をなす必要は存しないと主張する。

しかし、所論は村井学園が学園のため所論の美術品等を購入したことを前提とする主張であって、本件のように被告人が学園の資金を個人のために不正に使用し自分自身のためにこれらの美術品等を購入していた場合にはこれを秘匿するため仮装経理の必要があることは明らかである。

論旨は理由がない。

控訴趣意第三点(量刑不当の主張)について

所論は、要するに、被告人を懲役三年六月及び罰金三〇〇〇万円に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である、被告人に対しては刑の執行を猶予するのが相当である、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討する。

本件は、学校法人村井学園の理事(理事長は被告人の妻村井みどり)で、同学園の営む立川女子高等学校の校長及び立川幼稚園の園長を兼ねていた被告人が、妻の理事長に代り、同学園の実質的な最高責任者として学園経営を一手に引き受け、預金の管理・小切手振出行為等の金銭出納業務を独占的に統轄掌理していたものであるが、その立場を利用し、マンション、別荘地、施設利用権、ゴルフ会員権の購入代金、宝石、高級腕時計、書画、骨とう、美術品の買物代金等の個人的用途のために村井学園の小切手を振り出し或いは同学園の預金から現金を払い戻す等し同学園に総額約七億六七〇〇万円の損害を与えたという背任・業務上横領と昭和五六、五七の両年度にわたり合計三億五九〇〇万円余の所得税をほ脱したという所得税法違反の事案であり、背任・業務上横領によって学園に与えた損害の額が巨額であること、所得税法違反の事実についても脱税額が多額であり、そのほ脱率も昭和五六年度が九九パーセント余、昭和五七年度が一〇〇パーセントときわめて高率であることがまず注意されなければならない。しかも、被告人は学園の経理に対する都の監査や税務署の調査に備え、予め用意した実在しない業者等からの領収証等の用紙、印鑑等を使用して仮装の経理処理をすることによって本件背任、業務上横領等の犯行を隠ぺいしてきたものであって本件は計画的かつ巧妙な犯行といわねばならない。そして、本件が教育の場で教育の責任者によって行なわれたもので、生徒や父兄の学園に対する不信の念を募らせ、学園に対する社会の信用を下落させたであろうことも容易に推認しうるところである。このような面から見れば被告人の刑事責任はまことに重大であり、被告人を懲役三年六月及び罰金三〇〇〇万円に処した原判決の量刑も理解できないわけではない。

一方、被告人に有利な情状としてまず第一に挙げなければならないのは、被告人の村井学園に対する顕著な貢献度、功績である。被告人は昭和三〇年代の始めころから村井学園の運営一切を委され、生徒数の拡大、校舎、図書館の建設や教育の充実等村井学園の発展と充実のために昼夜を分たず一時は文字通り寝食を忘れて努力してきたものであって、村井学園が現在の姿にまで発展・充実したのはひとえに被告人の努力によるものであり、原判決も被告人を村井学園の最大の功労者であると認めているのである。

次に、被告人のため斟酌すべき情状として挙げなければならないのは、被告人が本件犯行を決意するに至った原因・背景・動機である。すなわち、前述のとおり、被告人は、これまで村井学園の運営に関与していなかった松本雄三が、被告人を措いて村井家の財産を取得できる相続人の地位に就き、また愛子の死後松本を村井学園の理事にすることを理事長のみどりに承諾させる書類を作らせるなどし、さらに現実に遺産の分割を請求したため、村井家の中にあって次第に孤立感を深め、松本に村井学園の経営の実権を奪われるのではないかとの強い危機感を抱き、村井学園をここまで発展・充実させたのは被告人自身の努力によるとの強い自負心を持っていたことと相まって、これに対する対抗策として本件背任・業務上横領の犯行に及んだものであって、村井学園の経営にほとんど貢献することのなかった松本を村井家の相続人の一員にしながら、同学園の最大の功労者ともいうべき被告人を相続人に加えず排除したことについては、被告人に女性問題やその他の問題があったにせよ、被告人にとっては配慮を欠いた酷な措置であったというべきであり、右の愛子と松本の間の養子縁組や松本を理事にすることの承諾書は、いずれも松本の巧みな慫慂によるものであり、愛子の遺言書の隠匿等松本の言動には問題なしとはしない点も少なくないことなどをあわせ考えると、被告人の立場、本件の原因・背景・動機には同情すべき余地がある。

さらに被告人に有利な情状として、本件が発覚するや被告人は本件によって村井学園の被った損害を早期に弁償すべく、起訴前から可成り多額の弁償をはじめ、すでに全額弁償済みであることが挙げられる。すなわち、被告人と村井学園の間に、本件起訴にかかる背任・業務上横領の全損害額七億六八二四万六二一八円及び本件により村井学園が東京都に返済することを余儀なくされた補助金相当額、違約金、延滞金合計三億一〇九三万三七〇〇円の損害賠償義務が被告人にあることを認め、その全額を返済する旨の和解契約が締結され、これまでにその全額が支払済みとなっている。

村井学園側では被告人の誠意を認め、全理事の総意により被告人の寛大な処分を望む旨の理事長名の上申書が作成されている。

また、所得税法違反の関係では、前記のように背任・業務上横領の被害の全額を弁償したので、被告人は昭和六〇年一〇月五日立川税務署長に対し所得税法一五二条、同法施行令二七四条により本件対象年度の確定所得金額につき更正請求をし、同年一一月三〇日更正決定を受け、背任・業務上横領で得た金額を全額減額され、減額後の所得税はすでに完納されている。

このような被告人の村井学園に対する顕著な貢献度、功績、本件犯行の原因・背景・動機、横領・背任の全被害額が弁償済みであるだけでなく、本件によって村井学園が東京都に対し返済を余儀なくされた補助金相当額、違約金、延滞金についても被告人に損害賠償義務があることを認め、これについても全額支払済みであること、村井学園において全理事の総意による被告人に対し寛大な処分を望む旨の上申書が作成されていること、所得税法違反の点につき本件背任・業務上横領の全被害額を弁償をしたことに伴い本件背任・業務上横領の全額の減額更正を受け減額後の所得税は完納されていることの外被告人が村井学園を懲戒解雇される等相当の社会的制裁を受けていること、被告人には前科・前歴はないこと、被告人が反省悔悟していること及び被告人の年齢等を考慮すると被告人に対してはこの際懲役刑の執行を猶予するのが相当であるから、被告人を懲役三年六月及び罰金三〇〇〇万円に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であると認められる。論旨は理由がある。

よって、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し同法四〇〇条但書により被告事件について更に判決する。

原判決が認定した事実に原判決の掲げる法令(刑種の選択及び併合罪の処理を含む。)を適用し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役三年及び罰金三〇〇〇万円に処し、刑法二一条により原審における未決勾留日数中六〇日を右懲役刑に算入し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは金一五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から五年間右懲役刑の執行を猶予し、原審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項本文により全部被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 朝岡智幸 裁判官 小田健司 裁判官 新田誠志)

別紙

(一) 原判決一の(一)関係

1 別紙犯罪事実一覧表(一)1乃至3、5、6、14、21、27、32、35、37の中、金一、〇三八、八三〇円(S59・6・20付斎藤宏検面調書添付「村井弘に対する販売一覧表中113、114、118、119、120、141、142、152、153、154、157、159、161、166記載の各物品代金)。

2 別紙犯罪事実一覧表(一)4記載の河口湖カントリークラブ会員権購入代金。

3 別紙犯罪事実一覧表(一)7、8記載の中沢ヴィレッジ・ヴィラ購入代金。

4 別紙犯罪事実一覧表(一)9乃至12、15、16記載のリゾートタウン浜名湖購入代金。

5 別紙犯罪事集一覧表(一)13、17乃至20記載の象牙購入代金。

6 別紙犯罪事実一覧表(一)22、24、25、30、31、33、34記載のハワイ・カウアイ・ビーチ・ヴィラ購入代金。

7 別紙犯罪事実一覧表(一)26、28記載の南房総プリンセス・シーハイツ購入代金。

8 別紙犯罪事実一覧表(一)36記載のルビー購入代金。

(二) 原判決一の(三)関係

1 別紙犯罪事実一覧表(三)1、2記載の京都ダイヤモンドオーナーズクラブ会員権購入代金。

2 別紙犯罪事実一覧表(三)3乃至5記載のセンチュリー御宿シーサイド購入代金。

3 別紙犯罪事実一覧表(三)6記載のダイヤモンド芦の湖ソサエティ会員権購入代金。

4 別紙犯罪事実一覧表(三)10記載のチェックメイトカントリークラブ会員権購入代金。

5 別紙犯罪事実一覧表(三)12乃至38の中、金九八、六二一、四九〇円(S59・6・18付新川誠検面調書添付「売上集金一覧表中、冒頭記載の前年より繰越金九、三一二、八二四円及び同表5乃至143、144、145、177、185、187乃至191、198、199、207、208、210、239、240、242、255、256、259、260、263乃至270、275、278、279、283、285、289、290乃至292、295、297、302、306記載の物品等代金)。

6 別紙犯罪事実一覧表(三)39乃至70の中、42、45Ⅱ、46、47Ⅱ、48Ⅱ、50、54、56Ⅱ、59、61、62、63、65Ⅱ、67記載の美術品等購入代金。

7 別紙犯罪事実一覧表(三)71乃至80の中、71乃至75、76のうち四三五万円、77、78のうち六、五六五、九〇〇円、79Ⅰのうち五二四、五〇〇円、79Ⅱのうち八四九万円、80のうち四六五、〇〇〇円の各美術品等購入代金。

8 別紙犯罪事実一覧表(三)81乃至88の中、金八四六、〇〇〇円(美術品購入代金)。

9 別紙犯罪事実一覧表(三)89、90記載の美術品購入代金。

10 別紙犯罪事実一覧表(三)91乃至144記載の美術品等購入代金。但、昭和五七年度、四五四万円、昭和五八年度、二、二三一万円で購入した春画代金は除く。

11 別紙犯罪事実一覧表(三)145乃至162記載の美術品等購入代金。

12 別紙犯罪事実一覧表(三)163乃至188記載の美術品等購入代金。

13 別紙犯罪事実一覧表(三)189乃至218記載の書籍等購入代金。

14 別紙犯罪事実一覧表(三)219乃至221記載の美術品等購入代金。

15 別紙犯罪事実一覧表(三)222乃至224記載の美術品等購入代金。

(三) 原判決二の(一)関係

1 別紙犯罪事実一覧表(四)1記載の河口湖カントリークラブ会員権購入代金。

2 別紙犯罪事実一覧表(四)4、5記載のシーサイド北浜購入代金。

3 別紙犯罪事実一覧表(四)6、7記載のハワイ・カウアイ・ビーチ・ヴィラ購入代金。

(四) 原判決二の(二)関係

1 別紙犯罪事実一覧表(五)1記載の逗子マリーナ本館購入代金。

2 別紙犯罪事実一覧表(五)6乃至51記載の南房総プリンセス等不動産、同利用権等購入代金。

3 別紙犯罪事実一覧表(五)58乃至66記載の不動産等購入代金。

4 別紙犯罪事実一覧表(五)67乃至98記載の不動産等購入代金。

5 別紙犯罪事実一覧表(五)117乃至119記載の中沢ヴィレジ購入代金。

6 別紙犯罪事実一覧表(五)120記載の熱海マンション等購入代金。

7 別紙犯罪事実一覧表(五)121記載の熱海マンション購入代金。

8 別紙犯罪事実一覧表(五)122記載の箱根ヴィレッジ購入代金。

別紙犯罪事実一覧表(一)

<省略>

別紙犯罪事実一覧表(三)

<省略>

別紙犯罪事実一覧表(四)

<省略>

別紙犯罪事実一覧表(五)

<省略>

○控訴趣意書

被告人 村井弘

右の者に対する背任、業務上横領、所得税法違反被告事件につき、昭和六十一年三月六日東京地方裁判所が言渡した判決に対し、控訴を申し立てた理由は左記のとおりである。

昭和六十一年八月三十日

右弁護人 菱川嘉三

同 星正夫

東京高等裁判所刑事第一部 御中

第一点 原判決が「罪となるべき事実」と摘示した事実中には、左記の通り、被告人が学園備品、学園資産として購入したものを、被告人が私物として購入したと誤認した違法があり、この点において原判決は、破棄さるべきである。

(一) 原判決一の(一)関係

1 別紙犯罪事実一覧表(一)1乃至3 5 6 14 21 27 32 35 37の中、金一、〇三八、八三〇円(S59・6・20付斎藤宏検面調書添付「村井弘に対する販売一覧表中、113 114 118 119 120 141 142 152 153 154 157 159 161 166記載の各物品代金)。

2 別紙犯罪事実一覧表(一)4記載の河口湖カントリクラブ会員権購入代金。

3 別紙犯罪事実一覧表(一)7 8記載の中沢ヴィレッジ・ヴィラ購入代金。

4 別紙犯罪事実一覧表(一)9乃至12 15 16記載のリゾートタウン浜名湖購入代金。

5 別紙犯罪事実一覧表(一)13 17乃至20記載の象牙購入代金。

6 別紙犯罪事実一覧表(一)22 24 25 30 31 33 34記載のハワイ・カウアイ・ビーチ・ヴィラ購入代金。

7 別紙犯罪事実一覧表(一)26 28記載の南房総プリンセス・シーハイツ購入代金。

8 別紙犯罪事実一覧表(一)36記載のルビー購入代金。

(二) 原判決一の(三)関係

1 別紙犯罪事実一覧表(三)1 2記載の京都ダイヤモンドオーナーズクラブ会員権購入代金。

2 別紙犯罪事実一覧表(三)3乃至5記載のセンチュリー御宿シーサイド購入代金。

3 別紙犯罪事実一覧表(三)6記載のダイヤモンド芦の湖ソサエテイ会員権購入代金。

4 別紙犯罪事実一覧表(三)10記載のチェックメイトカントリークラブ会員権購入代金。

5 別紙犯罪事実一覧表(三)12乃至38の中、金九八、六二一、四九〇円(S59・6・18付新川誠検面調書添付「売上集金一覧表中、冒頭記載の前年より繰越金九、三一二、八二四円及び同表5乃至143 144 145 177 185 187乃至191 198 199 207 208 210 239 240 242 255 256 259 260 263乃至270 275 278 279 283 285 289 290乃至292295297302306記載の物品等代金)

なお、前記売上集金一覧表冒頭記載の売掛残金九、三一二、八二四円については、その明細は不明である。前記検面調書には請求金額一〇、八三三、五〇〇円の請求書が添付され、右請求金額の一部が売掛残金として繰越されたものと原裁判所は判断したものと考えられるが、松坂屋銀座店は、被告人名義の掛売口座を昭和五〇年七月一三日に開設し、以来被告人に物品販売を行っている。前記売上集金一覧表165 166 235にはギフトカードの売上記載があり、右は原判決が三越・伊勢丹関係で学園の歳暮等の贈答品(原判決の贈等品の記載は誤り)代と認定したと同様の支出ではないかと考えられる物品の取引記載があり、或いは、前記請求書記載の請求金が発生した後である昭和五四年の暮に、学園の歳暮用贈答品としてギフトカードの購入もありえた事も想像出来るのである。なお、前記請求書の日付は昭和五五年一月二五日付になっているが、その日付は、新川誠が適宜入れたものにすぎないことは、右請求書記載の物品記載が、前記売上集金一覧表に全く記載されてないことから明らかである。

6 別紙犯罪事実一覧表(三)39乃至70の中、42. 45.Ⅱ 46. 47.Ⅱ 48.Ⅱ 50. 54. 56.Ⅱ 59. 61. 62. 63. 65.Ⅱ 67記載の美術品等購入代金。

7 別紙犯罪事実一覧表(三)71乃至80の中、71乃至75. 76のうち四三五万円、77. 78のうち六、五六五、九〇〇円、79.Ⅰのうち五二四、五〇〇円、79.Ⅱのうち八四九万円、80のうち四六五、〇〇〇円の各美術品等購入代金。

8 別紙犯罪事実一覧表(三)81乃至88の中、金八四六、〇〇〇円(美術品購入代金)

9 別紙犯罪事実一覧表(三)89. 90記載の美術品購入代金。

10 別紙犯罪事実一覧表(三)91乃至144記載の美術品等購入代金。但、昭和五七年度、四五四万円、昭和五八年度、二、二三一万円で購入した春画代金は除く。

11 別紙犯罪事実一覧表(三)145乃至162記載の美術品等購入代金。

12 別紙犯罪事実一覧表(三)163乃至188記載の美術品等購入代金。

13 別紙犯罪事実一覧表(三)189乃至218記載の書籍等購入代金。

14 別紙犯罪事実一覧表(三)219乃至221記載の美術品等購入代金。

15 別紙犯罪事実一覧表(三)222乃至224記載の美術品等購入代金。

(三) 原判決二の(一)関係

1 別紙犯罪事実一覧表(四)1記載の河口湖カントリークラブ会員権購入代金。

2 別紙犯罪事実一覧表(四)4 5記載のシーサイド北浜購入代金。

3 別紙犯罪事実一覧表(四)6 7記載のハワイ・カウアイ・ビーチ・ヴィラ購入代金。

(四) 原判決二の(二)関係

1 別紙犯罪事実一覧表(五)1記載の逗子マリーナ本館購入代金。

2 別紙犯罪事実一覧表(五)6乃至51記載の南房総プリンセス等不動産、同利用権等購入代金。

3 別紙犯罪事実一覧表(五)58乃至66記載の不動産等購入代金。

4 別紙犯罪事実一覧表(五)67乃至98記載の不動産等購入代金。

5 別紙犯罪事実一覧表(五)117乃至119記載の中沢ヴィレジ購入代金。

6 別紙犯罪事実一覧表(五)120記載の熱海マンション等購入代金。

7 別紙犯罪事実一覧表(五)121記載の熱海マンション購入代金。

8 別紙犯罪事実一覧表(五)122記載の箱根ヴィレッジ購入代金。

(五) 原判決三関係

原判決は「前記のとおり、自己が購入した別荘、宝石、高級腕時計等の代金の支払いを同学校法人の資金で行うなどして同学校法人から多額の収入を得ていた」として、「罪となるべき事実」一、二に記載された摘示事実すべてを被告人の収入と断じ、その結果、被告人の昭和五六年分の実際総所得金額を、二三一、三八九、一三八円、昭和五七年分の実際総所得金額を、二九六、一七九、八三五円と認定した。

しかしながら、(一)被告人名義の不動産、不動産利用権、ゴルフ会員権は、その名義にかゝわらず学園資産であり、(二)美術品、書籍等も又、学園資産であり、被告人の資産ではない。(三)更に、被告人又は被告人の家族の所謂私物の取得、税金支払等に際し支出された学園資金、或いは岡野等への支払のため支出された学園資金は、学園からの被告人の仮払金にすぎず、被告人の収入ではないのである。

結局、被告人の昭和五六年分の実際所得金額は、金二二、三八七、四九三円(被告人の申告額に、被告人が業者等から取得したリペート収入を合算した額)であり、昭和五七年分の総所得金額は、金二三、六九三、八六〇円である。

(六) 不動産・不動産利用権・ゴルフ会員権・美術品・書籍類は学園資産ではないとの認定について。

(一) 不動産・不動産利用権・ゴルフ会員権について。

1 原判決は「村井学園においても私立学校法三五条一項の規定に基づき法人役員たる理事を五名置いており、本件当時被告人は理事であったものゝ、同学園は、法三七条一項但書に基づき同学園の寄附行為八条において理事の代表権を理事長ひとりに制限するとともに、学園の予算借入金、不動産購入などの重要事項については、理事の三分の二以上の議決を要するものとされており、さらに同学園の寄附行為を補充するものとして、同学園の経理規程が設けられており、帳簿、書類の取扱い、金銭の支出手続、金融機関との取引、固定資産の管理等について、かなり厳格な規程が置かれ、法人たる村井学園の財産管理及び健全運営の方針が貫かれているのであり、被告人も前記のとおり昭和三一年ころから事実上学園経営の責任者として、毎年の法人決算等の手続内容に関与して来たのであり、これら村井学園の寄附行為や経理規程に反する学園収入の処分が、法人たる村井学園の許容しうるものでないことは当然に知っていた」と認定しているが、現実の村井学園は、学園創立者たる村井熊太・その長女たる村井愛子・そして被告人と引継がれたその時々の現実の主宰者の独断で運営され、理事会の存在などは全く有名無実なものであった。唯、右現実の主宰者達は、村井家の資産は村井家自身の為の財産ではなく、村井学園存続の基礎たるべきものと観念し、現実に、村井学園の敷地の大半は、同学園創立以来、村井一族の私有地を無償で提供し、昭和三三年村井学園の講堂建設資金全額を、村井一族所有の東京都新宿区大久保二丁目七九番三二他の土地を売却して賄い、昭和四三年学校敷地拡張のため、立川市高松町二三番三他の土地上の村井一族所有の家作を取こわし、その敷地を提供し、更には、立川市紫崎町六丁目一一〇番他の村井一族所有土地を学校グランド用地として提供したりして前記、村井熊太の村井家の資産は村井学園存続の基礎であるとの信念を現実化して来たのである。

右、村井学園の時々の主宰者達の真摯な学園経営姿勢は、逆に、村井学園理事達を安心せしめ、理事会の監督機能を放棄した形をとらせていたのである。

被告人は、昭和四十年代に、学園名義で、栃木県那須郡那須町大字高久乙一八六五の二、山林六七九九平方米、長野県大町市大字中畑二二三四番一、原野七八二六平方米、立川女子高等学校名義で、長野県芽野市北山字本道三四一九番、山林三三八三平方米(貸借権)を理事会の承認を得ることなく取得した。右三筆の不動産は、被告人が維持を退任する迄、学園資産台帳には学園資産として計上されていなかった。又、前記紫崎町所在の学校グラウンドの貸借権も、学園資産台帳に学園資産としては計上されていなかった。

被告人にとって、学園資産台帳に学園資産と計上されているか否かは全く問題でなく、前記、各土地はすべて学園資産であった。

被告人が、被告人名義で取得した不動産、不動産利用権、ゴルフ会員権(S59・7・18付被告人検面調書添付不動産取得明細表参照)は、その所有名義に関係なく、学園が必要とする時は当然、学園資産として学園に提供されるものであったのであり、被告人が自由に処分出来るものではなかったのである。敢えて云えば、不動産の名義人たる村井弘は、学園主宰者としての村井弘であり、個人としての村井弘ではなかったのである。

2 被告人名義で取得したマンションは、逗子マリーナを除き、すべて、当該マンション中、一番大きなものである。被告人が、個人として利用するのであれば、そのような大きなものを取得しなければならない必然性は全く存しない。被告人は、それ等マンションをすべて学園施設と考えていたからこそ、取得しうる一番大きなものを購入していたのである。

逗子マリーナは、新築マンションではないため、たまたま、空家となったものを取得したため、通常の個人マンションの規模となったものであるが、これも又、被告人は学園資産として購入したものであった。

原判決は「内装工事を施し家具調度をとゝのえ、被告人の家族に自家の別荘として使用させていた」として、逗子マリーナが、学園資産でないと断定しているが、被告人が、家族の逗子マリーナ使用を黙認したのは、左記事情によるのであって、被告人の、逗子マリーナを自己の別荘としていた為ではない。

即ち、松本等は再三にわたり、被告人には、女が居ると云うことを、被告人の家族に吹聴していた。松本等の云う女とは、岡野貴美子、小林良子、中島里子ではなく、実在しない女にすぎなかった。所が、被告人方に送付されて来る固定資産税等納付通知書等から、家族が、被告人は、右女を、囲うべくマンションを購入したと騒ぎ出したため、被告人は、家族等の想像が事実と異ることを確認させるため、やむなく逗子マリーナの存在を家族に伝えたため、以後家族が数回、逗子マリーナを利用したに過ぎない。

3 第一熱海マンション及び逗子マリーナには、家具調度が整えられ、宿泊が出来る。又、「蓼科ソサエティクラブ」「多摩ヘルスクラブ」「相模湖カントリクラブ」「逗子マリーナクラブ」「飯能パークカントリークラブ」「美里ゴルフクラブ」「京都ソサイエティ」「河口湖カントリークラブ」「シーボニアメンズクラブ」「プレジデントクラブ」「芦の湖ソサイアティ」「チェックメイトカントリークラブ」はすべて、利用出来る施設である。

被告人は、ゴルフを全くたしなまないため、右各ゴルフ場を使用することは全くなかったが、ゴルフ場以外の右施設を、被告人は、全く使用していない。

右事実は、被告人が、これ等の不動産、不動産利用権、ゴルフ会員権を自己名義としたにかゝわらず、すべて、学園資産と観念していた事を雄弁に物語るものと云うべきである。

(二) 美術品・書籍について

1 美術品・書籍の納品伝票・領収書の宛先は、すべて、立川女子高等学校である。三越・松坂屋・伊勢丹・関東高島屋立川店・高島屋東京店の各デパートについては、所謂私物への支払分と学園備品への支払分とが区別されず、立川女子高等学校宛の領収書中に、右私物分が含まれていることは事実であるが、そのことは、美術品・書籍が学校備品であることを当然、否定するものではない。

2 美術品・書籍は、すべて、被告人が立川女子高校校長として使用していた村井学園図書館二階の応接室、同窓会室時には閲覧室に納品された。

これに反し、所謂私物は、すべて、村井家に納品された。

3 美術品は、すべて、別紙立川女子高校図書館見取図、青斜線部分(応接室及び同窓会室の一部)に保管され、書籍は同図、赤斜線部分(理事長室、応接室、同窓会室、二階階段上り口、閲覧室廊下部分、閲覧室角、一階書庫)に保管された。

一方、所謂私物は、すべて村井家に於て保管された。

4 美術品・書籍は、すべて、納品された時の梱包状態のまゝで保管されていたが、所謂私物は、納品の都度、それぞれの用法に従い使用された。

5 即ち、美術品・書籍は、学校備品として、校長たる被告人が、学園名義で購入し、学園施設内で保管していたのであった。

美術品・書籍中に一部、学園備品としては専門的すぎて不適切なものがあり、且、全く、学園台帳に学園資産として登録されてなかったことも事実であるが、そのことは直ちに、被告人が右美術品・書籍を学園備品として購入したことを否定するものではない。

被告人が購入した書籍中には、全く同一のものを二冊以上購入している事例が多々あり、若し、被告人が購入した美術品・書籍が学園備品でないと断定するためには、同一書籍を二部以上購入した理由が説明されなければならない。

6 念の為、書籍が保管されていた二階階段上り口、閲覧室廊下、閲覧室角は、生徒達が自由に出入り出来る場所であり、又、書庫内も、同所の掃除を生徒が行っている関係上、生徒達の目に触れる場所である。

理事長室・応接室・同窓会室には、一般的には生徒は立入らないが、被告人が、会議室で多く事務をとっていた関係から、被告人を尋ねる教職員はしばしば、応接室・理事長室の状況を目撃していたのである。

第二点 所得税違反について

所得税法違反の公訴事実については原審での弁論要旨一〇八ページ以下で陳述しているところを全部援用するが、更に補足する。

本件の公訴事実は昭和五十六年度と昭和五十七年度であるが、これが起訴に至る発端および経過は次のとおりで行為の時点では税金の関係は被告人としては何の意識もなく、捜査当局等の指摘によって始めて知ったものである。

(一) 昭和五十七年九月立川税務署内田法人税源泉所得税第二部門統括国税調査官他が学校職員の給与源泉税について臨戸調査に来園し、この点に関し、被告人はその作成にかかる上申書(二)の二「税務調査の発端とその後の処理」と題して陳述しおるところであるが、これと渡辺税理士の証言、昭和五十九年六月一日付内田稔検面調書等を要約すると、その際その場所に本件美術品、図書あるいは書類帳簿が室内に置かれていた。その時係官は支払先及び反面調査のため資料箋を作成して持ち帰った。本来この時から問題となるまで一年間あるのに、被告人はもし意識していたものであれば物品を隠すとか仮名預金をするのが一般的なケースに多いが、本件ではこれに反し、全く無頓着であったことは、税について、ほ脱と疑われることを予期してなかった証左である。

(二) 昭和五十八年九月荒川税務署から前記資料箋の突合のため村井学園に電話連絡があり、そこで被告人は少し心配となり渡辺税理士に相談し、指摘されて初めて税のほ脱の疑が生じることを知った。

(三) 昭和五十八年九月荒川税務署から前記資料箋の突合のための連絡を受けた立川税務署の内田統括官等数人が調査に訪れた時の部屋も図書館で美術品等問題のものが多数置かれたところであった。この際はっきりしたのは仮装経理の一部のみであった。

(四) その後被告人側にとっては全容を解明して立川税務署の事実をつまびらかにして、その中で所得を構成することになるものは申告を致すことを前提とし、九月から十二月にかけて銀行の口座コピー、小切手裏書等により仮装された帳簿を自ら調査(渡辺税理士、村井正らの協力のもと)膨大な資料を三回程にわたって内田統括官に届け、税務当局の判断を仰いでいた。

この間に自らの判断で申告することもできたし、東京都提出の決算書類を修正して搭載したり、登記名義の変更をすることができ、物品等を隠すこともできたが、そのままにして税務行政上の指導に期待しつつ度々、税務当局に対し打診していたところ、意に反し、突然昭和五十九年五月査察官により捜査されることとなった。この間約八か月が推移していた。

(五) 昭和五十九年六月東京地検の捜索となり、被告人身柄拘束までの間、前記(一)の昭和五十七年九月から二年の間、ほ脱や横領の犯意があれば被告人には個人的財産もあり起訴前の弁済その他の措置を講じていたであろう。

現に、前記査察官の捜査着手前である昭和五十九年三月、六千万円、同年四月、七千万円、とりあえず弁済をすましていたのである。

尚虚偽の理事会議事録をねつ造した云々の検察官の指摘は渡辺税理士が議事録そのものがごく一部のものを記載した本来あるべきものを例示したものであり、調査に対し画策したわけではない。

(六) 以上の次第で被告人としては東京都の監査に対してのみ意識しており、税務のことは昭和五十八年九月になって教えられたが、この時はいかんともし難く陳情に終始していた。

次に、学校法人である公益法人(法人税法第二条六項)は収益事業を開始した時から二月以内に届出し、(法人税法第一五〇条)その後、事業年度終了してから二月以内に収益事業について(非収益事業については非課税同法第七条)の所得を計算して事業年度終了後二月以内に確定申告することにしている。(同法第七十四条)これに対し普通法人(第二条九号)は設立の日後二月以内に届出し又事業年度終了後二月以内に第七十四条の確定申告書を税務署に提出することとなっている。

そこで村井学園は収益事業を営んでいないので税務署に対し法人税法第一五〇条の届出をしておらず、従って確定申告をしていない。故に毎年作成した決算報告書は立川税務署には提出の必要がなく、提出されていない。従って普通法人と異なる監査を受けた決算報告書は専ら東京都に提出されるのみである。

故に原判決の認定している所得税ほ脱の犯意を以て偽りの決算書を作成したとする点にはあたらない。税務署に提出することのない決算書を作成する者が税務署を意識することはあり得ない。成る程原判決の摘示する被告人の検察官調書には、税務署を意識していた旨の記載があるが、これは被告人の意に添わない押し付けの調書で非合理である。本件発覚の端緒は前述の通り立川税務署が、学校法人村井学園から蒐集した資料箋が荒川税務署管内納税者と不突合となったことから税務的になったが、横領か否かであって税務とは関係がなく、それらの偽りの行為は税務のほ脱を目的としたものではなく、学校の補助金を受けるためのものであったのは明らかである。

所得税法第二三八条のほ脱行為は脱税の犯意を必要としている。横領即ち脱税とするならば全ての横領はほ脱犯の併科を必要とすることになるであろう。普通法人は決算書作成につき商法上の手続と共に税務上の申告を予定している。そこで特に同族会社等は脱税を意識して横領を意識しない場合が多いのに比して反対である。原審は経理の仮装処理は、被告人が本件背任及び業務上横領により得た所得を秘匿するため行われたものと認定していることは明らかに事実誤認であり到底破棄を免れないものと思料する。

猶、原判決は「被告人にとって都の監査が当面の関心事となっていたであろうことは推察するに難くない。しかし、このことは経理の仮装が被告人の所得を秘匿するためになされたことと矛盾するものではなく、両者は併存し得るし、その間に軽重があっても差支えない」とし「経理の仮装処理は、被告人が本件背任及び業務上横領により得た所得を秘匿するため行われたもの」と断じている。

学校法人村井学園は、学校法人であるから、特別の営利事業を営まない限り、教職員に対する給与支払に基づく源泉税支払以外は、納税義務は存しない。したがって、給与関係以外の支払内容について、対税務署関係で支払内容につき仮装経理をなす必要性は全く存しない。一方、東京都の監査関係に於ては、学園の支出が、学校設備の充実、教育資材の補充、教職員給与の適正支給等、学校経営の基盤に充当されず、不相当な保養設備や必要性のない高額美術品等の購入等、冗漫経営的支出に多数充当されていたのでは、補助金の性質上、その支給が確保されない場合も考えられるから、被告人は支払内容につき仮装経理をなしたものである。

高価な美術品・書籍の購入、不相当な保養設備の購入等は、それが事実であれば、対税務署関係で、何等仮装経理をなす必要性は存しない。税務署は、唯、それ等の取引が現実に存在したか否かを確認すれば足り、その取引が学校経営にとって妥当か否かを判断する必要は全くないのである。その意味に於て、被告人が美術品・書籍の購入事実等迄も仮装経理していた事は、仮装経理が専ら、都の監査に対するもので、対税務署関係のためでは全くなかったことを明確に示しているものと云わなければならない。

被告人は給与所得と、所有不動産から発生する果実収入を、税務署に申告すれば充分であった。勿論、被告人が取得した不動産の取得財源について、税務署から調査を受けることはありうるが、現実には、被告人は、未だかつて立川税務署から、その調査を受けたことがなかったのであり、被告人は、そのような調査を将来受けるかも知れないなどと云うことも、全く考えていなかった。したがって、被告人は自己の所得申告に関しても、仮装経理などを必要とするなどとは毛頭考えていなかったのである。

即ち、被告人が村井学園の経理について仮装経理処理をしたのは、専ら、東京都の監査に対する関係に於てであり、自己の収入を秘匿する為になしたものではない。

第三点 原判決の刑の量定は重きに失し不当である。即ち原判決は「量刑の理由」の項に裁判官として最も苦心の存する所を分析検討し、判示されているところであるが、弁護人としては以下述べる理由で被告人に対し実刑を以て処断したことは不当であり、原判決を破棄して、執行猶予の判決を求める。

(一) 現判決は「量刑の理由」の冒頭において、本件は全て個人的用途のため、計画的に行われた常習的犯行と断じ、学園に与えた損害が合計約七億六七百万円と驚異的巨額であった旨指摘する。然も、被告人は検察官の論告どおり補助金を食いものにしたとの主張をうのみにし(立証なし)、使途について一部を除き個人的消費にあて、長期間にわたり架空の伝票・領収書を作成、経理面を偽装し、本件発覚により学校関係者や社会に与えた影響の重要性を強調されている。

然しながら前述したとおり被告人としては上申書にもあるとおり、本件行為が犯罪となるとの認識は当初よりほとんどなく、その動機原因については原判決も情状酌量の余地のあることを認定しているのである。

この両者の比較較量こそ被告人を実刑を以て処断すべきか否かの岐路を決する重大な決め手になると思料する。

弁護人もこの点に関し昭和六十年十二月二十四日月弁論要旨(三)結びの項、情状論において仔細に述べて来たところであるが、原審「量刑の理由」と対比しつつ再論する。

「量刑の理由」(原判決書三一丁以下)で被告人が本件犯行を決意するに至った原因、背景には考慮すべき問題があると指摘し、義弟松本雄三の策謀により被告人のみが相続人から排除され、その地位を奪われ学園の危機を回避せんとする被告人の苦肉の策がかえって裏目に出てしまったのが本件である。被告人は当初より学園の資金を私物化し、栄燿栄華を計ろうとしての計画的犯行ではなく、学園のため、その発展向上を目指し、万一の場合に備えての所為であったのである。

原判決も関係証拠より被告人が村井学園の経営に携わるようになってから生徒との募集、教育内容の充実、校舎の建設等学校基盤の充実拡大に努め、寝食を忘れて学園の経営に没頭するなど学園のために心身を傾倒して来たことを認め、戦後の村井学園の発展と現在の安定はひとえに被告人の努力に負っているといっても過言ではないとして被告人の功績を高く評価している。

これに反し被告人の周囲をとりまく環境は原判決の指摘するとおり。松本雄三の好策、妻であり理事長であるみどりの無関心さ、愛情のなさ、夫婦関係のきずなの破綻等の四面楚歌のもと被告人の孤立感から学園経営の危機感をふかめ何らかの対応策を講じようと考えるのも自然であったし同情に値する(学園の理事者側にも一半の責任があったとの事情も、犯罪の悪質さを否定できる)としながらも被告人の措った本件のやり方は限度を越えた違法行為に堕したのは、村井学園の最大な功労者である被告人にとってまことに惜しむべきこととまで論じている。

更に原審は被告人に有利に斟酌すべき事情として、被告人の村井学園にたいする顕著な功績、貢献度を挙げ、これに加えて被告人が村井学園に対し本件被害全額を弁償している点、(被害そのものの回復、被害弁償の実現のために被告人が誠実に努力した結果)、本件により同学園が東京都に返還を余儀なくされた補助金額相当分の賠償義務あることを認め既に一部返済し、示唆も成立しており、(ここに被告人の被害弁償のために示した誠実な人格態度が考慮されている)所得税法違反については更生決定を受け、背任横領で得たとされる所得を全額減額されており、村井学園は事件後理事会が一新され、現在では生徒募集や生徒に対する教育、指導も支障なく行なわれており、新理事長も全理事の総意により被告人に対し寛大な処置を望む旨の上申書が作成されていること、因みに加藤有子理事長は学園出身者で校医、滝瀬政吉理事はPTA会長、坂田トヨ理事は同窓会会長、棚田孝理事は校長、赤堀道子理事は教諭である。(学園側の宥恕を得ている情状)被告人は本件により既に相当なる社会的制裁を受け、(刑罰は犯罪行為に対する社会的制裁である)、村井学園との関係を絶って村井家ともはなれて独りちっ居し、反省の日々を送っていること、再犯の虜全くなく、被告人には前科前歴が全くないこと、被告人の年齢、被告人の社会的地位、家族との関係について酌むべき点があること(弁論要旨も同趣旨)等有利な諸事情を詳細に摘示されながらも尚懲役刑の執行を猶予するのは相当でないとされた点については弁護人としては納得し難い所と言わざるを得ない。

被告人は固より執行猶予の暁は学友らの推ばんで正業につき、それを継続していく見込みは十分である。

原審は財産犯であり、然も全額弁償済みであるなど、裁判所認定の情状のもと被害者を代表して生命身体犯にもまさる重き求刑(懲役六年・罰金一億円)が果たして妥当なものであったろうか。検察官の求刑を不用意に鵜呑みにしたとは思わないが、重すぎると感じをもたれながらも、その求刑を基準にしての量刑ではないかとの疑問を持たざるを得ない。

当審においては本件が世上に頻発する背任、業務上横領、所得税法違反とは類型を異にする事犯であることも勘案し、原判決を破棄して執行猶予の恩典に是非とも浴させて戴くよう上申致します。

立川市高松町3-12-1 立川女子高校 図書館 見取り図

<省略>

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